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November 08, 2010

バブルの「空気感」

たまにやる「雑誌目次をみる」シリーズ特別編。昨晩テレビで「バブルへGO!」を放映していたようで、ツイッターの自分のタイムラインが一時バブルネタで埋め尽くされた。そのとき、NHKで放映された土地問題のスペシャル番組が話題になったので、ああそういえばその手の番組が書籍化された本を持っていたなと思い出し、探してみたらあったので久しぶりに見てみた。

で、当時を思い出したい人、当時を知りたい人向けに少しだけご紹介しとく。最初にことわっておくが、ここでいう「バブル」はいわゆる「バブル景気」やその当時の風俗習慣とかじゃなく、その語源となった土地価格のバブルを指す。

本棚から見つけたのはこの本。

月刊ウィークス臨時増刊「NHKスペシャル 緊急・土地改革 地価は下げられる」1990年12月、日本放送出版協会刊

今見るとタイトルが??な感じかもしれないが、これが当時の空気をよくあらわしている。つまり、「何をやっても地価はもう下がらない」というあきらめに似たムードだ。NHKは当時の地価高騰について二度、シリーズものの特集番組を放映している。一度目は1987年9月から8回放映された「土地はだれのものか」。ちょうど東京の地価がもっとも急激にはね上がった時期にあたる。このときの特集も本になってて、確か持ってたと思うんだが発見できなかった。

発見した本の方の元になったNHKスペシャルは、1990年10月10日~14日まで五夜連続で放映された。このころには地価高騰が地方に波及していて、それは東京の地価が監視区域制度をはじめとするさまざまな政策手段によって抑えこまれて頭打ちになっていたから(それでも抜け道はあったが)でもあるが、影響を受ける人数は増えるわけで、五夜連続という番組編成でも当時これがいかに重大な関心事だったかがわかるだろう。今でいえば、「無縁社会」とか格差問題とか、少なくともそのくらいのインパクトだったはず。この本のプロローグにこんなくだりがある。

このように、近年の異常な地価高騰は、内に対しても外に対しても、日本の将来を脅かす十分な要因になっている。今こそ、地価高騰という〝妖怪〟をなんとか退治しなくてはならない――これはだれしも思うことだ。だが、本当にできるのだろうか。

なんとも悲愴。「本当にできるのだろうか」ってことは疑問符がついてるってことだ。少なくともこのままではだめだ、という意見はかなり強くなってたが、「こうやれば解決できる」という力強い表現も裏返せば不安の証拠ではある。

この本の目次は、五夜連続の番組に対応してる。こんな感じ。

プロローグ 日本を脅かす〝異常な地価〟

〈第一部〉解決の条件1 土地本位制を崩せ
地価高騰の背景と経過
日本列島に渦巻く憤りと悲鳴
シミュレーション 市民生活を直撃!日本の将来が危ない。知らぬ間に負担を強いる高地価の影響
土地問題の壁・土地本位制 〝狂乱地価〟の根底にある、土地神話と土地本位制の経済構造を崩せ!
含み資産は企業の打ち出の小槌、振れば振るほど肥え太る
アメリカリポート 土地神話のない国アメリカ
四年で地価を半分に下げても、日本経済にはほとんど影響なし!
TV世論調査
討論 高騰の最大元凶、土地神話を崩さなければ地価は下がらない

〈第二部〉解決の条件2 公共優先の都市計画
高騰した商業地の地価が住宅地にハネ返った。住居地域になぜビルが建つ?
ドイツリポート 大聖堂近くのマイホーム ケルンに見る街づくりの哲学
無秩序な土地利用計画 ドイツ「Bプラン」に似て、非なる日本の「地区計画」
陳情による市街化区域の線引きがアダ、理念なき都市計画と開発のなれの果て
シミュレーション 用途地域を規制し、都市計画を実行すれば、地価は確実に下げられる
討論 今こそ私権を捨て、公共優先の概念を草の根に

〈第三部〉解決の条件3 実効ある土地政策
街にあふれる怒りの声
月島リポート 監視の目をかいくぐって、地価はこうしてつり上げられる
土地関連法を集めただけの、哲学なき土地政策
なぜ土地対策を実行に移せないか
検証I 監視区域制度の運用に、遅れを取った大阪府が払うツケの重さ
検証II 特例措置という免除措置が骨抜きにした土地税制に、土地問題の解決策を見出せるか?
「土地臨調」土地政策はこうして決められた
全国会議員アンケート
アメリカリポート 市民パワーが業者、行政を動かす―サンフランシスコに見る都市計画の実践
討論 議論は出尽くした、今こそ土地政策を実行の時

〈第四部〉解決の条件4 一極集中の排除
大都市の地価高騰が地方を直撃
1 北海道 農家は悲鳴、東京の資産家は節税
2 大分県 東京マネーが土地を買い占める
全国知事が訴える地方の窮状
東京意一極集中の経済構造と分散の壁
躍り出た「新都建設案」
東京一極集中を解決しなければ地価高騰は防げない
アメリカリポート 企業の地方分散を可能にした、アメリカの通信・交通政策を探る
討論 遷都、分都、展都あるいは新都建設
東京一極集中から地方分散への可能性

〈第五部〉徹底討論 土地問題・あなたの選択
各界の指揮者を迎え、土地問題の国民的コンセンサスを探る!
全国会議員アンケート
記者座談会


当時を知らない人には何のことやらさっぱりわからないのではないだろうか。個人的には、改めてこれをながめて、ちょっとめまいがする思いだ。

まずこの放送が1990円10月、出版が同12月だったことにご注目いただきたい。バブルの絶頂とされる、日経平均の最高値38,915円が記録されたのは1989年12月末、バブルの終焉に大きく影響したといわれている不動産融資の総量規制が始まったのが1990年4月だ。日銀は89年5月にすでに利上げに転じていた。放送時点ですでに、株価は25000円近くまで下がっていたはずだが、地価(少なくとも世間的な印象としての地価水準)はまだまだ、という状況だった。つまりこの時点で、まだ本当に地価が下がると思っている人は、そうたくさんはいなかったのだ。こんなくだりがある。

確かに、この一連の措置で不動産に向かった融資量は頭打ちとなり、減少傾向にある。九〇年四月から六月までの不動産向け貸し出し残高の伸び率は、初めて〇・九%のマイナスとなり、総貸し出し量の伸び率〇・六%を下回った。
しかし、大手都市銀行の幹部は、「これらの対策は、地価高騰を冷ます単なる対症療法にすぎない。風邪薬ではなく、強力な抗生物質、場合によっては外科手術が必要なのではないのか」と、自省の意味を込めて本音をもらしている。

「外科手術」が何を意味するかは不明だが、想像するに私権の大胆な制限や首都移転ぐらいのイメージだったのではないか。ポジショントークなら後者だろうが。番組では世論調査も行われた。1990年10月10日、第1回放送日に行われた電話アンケートの結果はこう。持家の人と借家の人に分けて聞いてるが結果は変わらない。

あなたは地価を下げるべきだと思いますか、それとも下げる必要はないと思いますか
             全体  持家  借家
・下げるべきだ    94%  94%  94%
・下げる必要はない  6%  6%  6%
・わからない      0%   0%   0%

第5回で行われたアンケートではこう。

政治の力で地価は下がると思いますか
・思う  34%
・思わない 66%

かなりあきらめムードだ。こういうときの調査では、回答者が「空気を読む」傾向があって、妙に悲観的になる場合が多いので、必ずしもこれが正しいと主張するつもりはないが、それでも当時、これだけやっても地価は下がらない、もう下がらないんじゃないか、といった見方はけっこう根強く残っていたと思う。当時をふりかえって「こんな異常な状況が続くわけない」と言っていた人は少なくなかったが、同時に「日本は特別だから」みたいな見方もあって、実際に高地価の継続を前提としない行動をとれた人はそう多くはなかったはずだ。

そういうあきらめっぽい「空気」みたいなものは、当時を知らない人にはなかなか理解しにくいかもしれないが、似たような諦観は今でもいろんな分野であると思う。「閉塞感」という表現なら今の人にもわかりやすいだろうか。結果として「地価下落」は実現し、それによって閉塞感は解消されたはずだが、その後のあれこれで別の閉塞感に変わったというのは皆さんご存知の通り。

その意味で、世の中の「振れ幅」は意外に大きくて人はそれを事前にはなかなか想像できない、というのがこのとき私が得た教訓の1つだ。この点は、素人さんだけではなく、「プロ」にもあてはまる。よくそういう時期に政治や行政の重責にあった人が後になって「当時は予想できなかった」とか語っているのを「見通しが甘い」と憤る方がいるが、現場にいてよく知っていればいるほど、大きな変化を予想しずらくなることは、実はよくあると思う。そんなのは「プロ」ではない、というご意見もあろうが、もしそうなら、古今東西「プロ」と呼ばれた人のほとんどはこのカテゴリから外れるだろう。もちろんそれはプロの皆さんを貶めるとかそういうことではなくて、そもそもそういうものだというだけの話だ。

それはそれとして、じゃあこの本でどんな対策を推奨してるかというのは目次である程度わかると思うが、おおざっぱにいえば次のようなものだった。
・不動産担保偏重姿勢の是正
・企業保有地、大規模保有地への課税強化
・用途地域等土地利用規制の強化
・首都移転を含む東京一極集中の排除

これらの方向性は、それぞれまがりなりにも政策その他に反映されはした。とはいえ、知る限りそれほど大きな効果はなかったといえるんじゃないだろうか。それは、これらが実施の際にていねいに骨抜きにされ、抜け道が用意されていて、非常に「まがりなり」だったことを考えればそれほど意外ではない。結局、一番効いたのは、番組放映当時すでに実施に移されていた融資の総量規制と金融引き締めだった、ということになるんだろう。その意味で、この番組もこの本も、事後的にみればそもそもずれてたというわけだ。

でもこのずれっぷりこそが、当時の「空気」の動かぬ証拠だともいえる。今の日本人は、当時の日本人より賢くなったかもしれないが、依然として同種のまちがいをする可能性は変わってない。だからこういう視点は、将来を考える際に忘れてはいけないと思う。

バブル検証本というとたとえばこれ。これはどちらかというと90年代以降の政策の失敗がメインテーマっぽいが。他にもいろいろあるんだろうけど今思い出せない。

あと「バブルへGO!!」関連と、同じ人がバブル期に作った映画も。


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