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例の「非実在犯罪規制」についてひとことだけ

現在東京都議会に再提出され、審議中の「東京都青少年の健全な育成に関する条例」改正案について、あちこちで反発の声が上がってる。賛成派の声はネットでは比較的静かなようにみえるのは、わざと騒がないようにしてるのかいなと思わなくもないが、まあそれはおいといて。

私の考えは、基本的に前回の案に対するものと基本的には変わってないのだが、改めて、「ひとことだけ」というほど短くはないが、できるだけ手短に書いておく。対象としてるのは例の「非実在犯罪」規制と呼ばれてる、マンガやアニメなんかのいわゆる「二次元」に関する規制の方についての方。ちなみに、いわゆる児童ポルノ、つまり実在の青少年の映像等を使ったものについての規制には基本的に賛成。あと、ネット関係はMIAUが意見書を出してて、これに賛成、とひとことだけ。

では順番に。時間がないのでざっくりと。

結論からいうと、この条例案には反対である。

反対の理由は、簡単にいえば、規制される表現の内容がきわめて曖昧にしか定義されておらず恣意的な運用を可能とするものであること、規制の目的と手段が不適合であること、制度運用の主体である都当局が、現時点ではこの観点で信用できないこと、の3点である。

まず大原則から。表現の自由は、最大限尊重されるべきである。何か特別にそれより重い理由がない限り、表現の内容にかかわらず、自由は認められるべきである。また、これは世間体のせいかあまり表立って主張されないが、ユーザーが性的内容を含むコンテンツを楽しむ自由も、それを上回る支障がない限り、最大限認められるべきである。これらの自由は日本国憲法が保障する基本的人権の一部であり、これに対する制限を行う際には、あらん限りの慎重さをもって臨むべきである。思想ないし表現が下劣だから保護しなくていいという発想は、基本的にとるべきではない。

しかし、表現の自由も、性表現を楽しむ自由も、正当な理由がある場合には、必要な範囲で制限されてしかるべきである。その必要性は、それが下劣だからという理由ではなく、制限することで得られるメリットとデメリットを比較衡量したうえで、メリットの方が大きい場合に認められるべきである。

今回の条例案が規制対象に新たに加えた「漫画、アニメーションその他の画像(実写を除く。)で、刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を、不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を妨げ、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」は、「不当に賛美し又は誇張」が依然として曖昧でああり、解釈により大幅に拡張できる余地を残している。

また、このような表現が「青少年の性に関する健全な判断能力の形成を妨げ、青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」ことの根拠が一切示されておらず、検討された形跡もない。合理的な根拠があるものとは認められない。

とはいえ、性的内容を含むコンテンツが無制限に青少年の目に触れる状況があるとすればそれは常識に照らして望ましくない効果をもつおそれがある、という懸念を抱く人が少なからずいることは無視すべきでない。

したがって、性的内容を含むコンテンツを、そうでないものと分別すること自体には賛成する。

しかし、その観点では、今回の条例案は、規制の範囲や対象が適切とはいえない。

青少年をすべて一括して扱うのは、子供の発育過程を無視した乱暴かつむしろ有害な規定のしかたである。たとえば未就学児、小学生、及び以上といったように、発達段階に併せて考えるべきである。この場合、たとえば、未就学児には教育目的以外の性的内容を含んだコンテンツが目に触れぬように、それより上の青少年には節度ある表現のコンテンツのみ、といった、段階に応じて接するコンテンツの範囲を広げていくかたちが望ましいと考える。

現在でも、いわゆる有害図書等の区分販売は行われているとの主張もあるが、必ずしもすべての販売場所においてそうなっているとはいいきれない。

しかし問題はむしろ、現在問題ないとされている一般雑誌や書籍等にある。これらのうち少なからぬものには性的表現が含まれており、これらが幼児の目に触れる位置に堂々と置かれ、実際に目に触れていることは、一般的な常識からみて望ましくないと考えられる場合が多々ある。

現在の条例案では、規制対象を、「漫画、アニメーションその他の画像(実写を除く。)で、刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を、不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現」したものとしているが、幼児の目に触れてほしくないコンテンツは、これに限られない。たとえばヌードグラビアや性風俗情報、その他性的な内容を載せた一般向け週刊誌、それらの広告を載せた新聞や雑誌等、性的表現を含む小説やマンガ、その他の書籍類、アニメーションなどは、少なくとも、幼児に見せてよいかという観点からは、有害図書等と基本的にすべて同類として扱うべきである。

幼児を超える年齢の青少年に対しては、保護者や教員等による性教育等に加え、適切なガイダンスを推奨する前提で、発達段階に合わせて許容される表現の幅を広げていくべきである。青少年と大人との間は、発達段階としては連続的なものであり、許容される表現の幅が大きな落差を持つことは、青少年の健全な成長の観点から、かえって望ましくない。「寝た子を起こすな」という主張は、「起きたときに困らないようにせよ」を上回る正当性を持っているとは考えられない。「起きる」時間が近づいた子には、それなりの準備を施すのがまっとうな考え方である。

このように区分した場合、むしろすべての青少年に見せてよいコンテンツの方が少数派となる可能性は充分にある。その意味で、成人向けコンテンツを分別するより、むしろ幼児向けコンテンツを他から分別し、その他の青少年向けコンテンツについては、発達段階に即して順番に並べる等の工夫を行うことが適切と思われる。

ここではっきりさせておくべきなのは、規制対象となるのは「有害」「不健全」だからではなく、「青少年の発達段階に照らして不適合」であるからである。したがって、当局が「有害」「不健全」などとレッテルを貼るのは不適切であり、適合する年齢層を表示すれば足りる。

どの表現物がどの年齢層に適しているかの判断について、原則として行政は関与すべきではない。科学的知見と良識に従って、事業者ないし事業者が指定する団体等が自主的に判断し、その結果をわかりやすく表示すべきである。販売者は、それに基づき、販売場所を分別することが望ましい。事業者は、表現の自由を守るために社会と折り合いをつける努力を厭うべきではない。

適切な表示がなされた時点で販売者にこのような分別を義務づける規制に対しては、基本的に賛成する。ただし、小規模販売店などで、充分な分別を行うのが困難な場合も考えられるため、運用に際しては柔軟な対応が求められるべきである。

いわゆる有害図書等に関しては、販売場所の分別を行うべきとする規定がすでに現行条例に存在する。これを前提として、以上の趣旨を具体的な規定に盛り込むとすると、当該規定から「有害」「不健全」などの概念を取り除き、事業者主体で年齢区分を行う旨、及び、規定の対象に上記の一般書籍、雑誌その他のコンテンツを含めるかたちとするのがよいのではないか。改正案の検討にあたっては、業界その他の関係者や識者、幅広い一般市民の考えを聞き、充分議論を尽くすべきである。これまでのような、密室でこそこそ進めるようなやり方はとるべきではない。

前回、及び今回の条例改正案に対してこれほどの反発が起きたのは、条例案が形式的に販売方法に関する規制のかたちをとりながら、実質的に表現規制となることを懸念する人々が少なからずいたからである。そしてその懸念は、もっともなものと考える。条例案の規定のしかた、これまでの当局及び関係者の発言、条例案の検討や審議に至るまでの過程等をみると、本条例を、制定後に実質的な表現規制として機能させようとする意図があると疑われてもしかたない状況であり、このままでは当局を信頼することはできない。

無用な対立を避けるためには、この条例案の中に、本条例に基づく規制が、表現の自由、及び、大人が制限対象のコンテンツを消費する自由を必要最小限度以上に阻害してはならないこと、適切な分別を前提として表現の自由に対する制約を行ってはならないことを明記すべきである。既に強い不信感が蔓延している現状を考えれば、付帯決議や知事答弁などではなく、条文の中に盛り込まなければ、信頼を得ることはできない。

ここまでやって初めて、規制を行うことのデメリットを、メリットを下回る程度に抑えることができる。規制を行うことのメリットは、明確な根拠のない「おそれがある」といった漠然とした懸念の解消である。これに対し、デメリットは、同じく漠然としているとはいえ、憲法上認められた表現活動全体の広範な萎縮を招きうるものであり、現在の改正案ではデメリットの方が大きいといわざるをえない。この状態を解消し、メリットがデメリットを上回る状態にするためには、表現活動の萎縮を招かない範囲、あるいは必要最小限度にとどめるとの意思を、条例案自体に明確に示す必要がある。

まとめると、対象年令の表示を事業者が自主的に行い、それを前提として、成人の自由を最大限尊重するかたちで、販売場所の分別を行う、という方向性に条例案を修正するならば、賛成する。現在のままであれば、反対である。

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Comments

読ませていただきました。そんなに難しい話ではないのです。恣意的な運用なんてありえません。恣意的に運用する理由が無いのですから。

自転車を放置駐車して逮捕された人知ってます?

利害関係者に煽られているあなたに教えてあげます。

1.全国の中で、東京都の条例がいちばんゆるい規制です。他の都道府県ではもっと厳しい運用がなされています。

2.表現の自由の侵害と言われる方も多いのですが、万が一にもこの条例が表現の自由を侵害する運用がなされることはありません。なぜなら憲法で保障されているので、憲法より下位である条例が優先されることは無いからです。

3.今回の条例改正により、日本が誇るコンテンツ産業を規制することになりません。なぜなら日本が誇る作品には、今回規制の対象になるような、海外では単純所持でも逮捕されるような可能性のある作品はふくまれていないからです。

4.今回の騒動は、エロ漫画などで利益を上げている大手出版社の関連会社始め、闇出版系など、利害関係の方達が執拗なロビー活動を行っているのです。
著名な作家さん、作家業界などは、その利害関係者に極端な情報を与えられ、反対活動をしているだけです

通常ならすんなり通る条例改正が素人ばかりの民主党が勘違いして反対してしまいました

5.今回民主党の皆さんも、反対運動の中心的会社や関係者を知って、状況を理解されたと聞いています

「セックス」をはじめ、「フェラチオ」、「手淫」、「アナルセックス」などの性交に極めて近い性的行為が、子どもを対象にストーリーなどに関係なく読者の性的好奇心を満たす目的のために具体的に表現されていて、かつ反社会的な行為が不当に賛美・誇張されていて、はじめて規制されます。

もしあなたがエロ漫画ファンであっても、18禁コーナーに行けば買えますので心配後無用

Posted by: トコトコ | December 08, 2010 at 06:04 PM

>>トコトコさん

とりあえず4のソースを出しましょう。
そして2は机上の空論に近い。これまでの実際の条例と事業者との関係性をよく調べて下さい。
また、3の“海外”は今回の件に関係ありません。
そして、最後に書かれた条件。「ストーリーに関係なく」「不当に賛美」等、こう言った曖昧な線引きが恣意的な取り締まりに陥る一端だと思いますよ。

Posted by: marz | December 10, 2010 at 03:05 PM

表現力有る作者は困らないし、想像力有る者は見ない物が規制されても無関係なので、黙ってるんです!(^^)!

Posted by: たっつん | January 03, 2011 at 08:05 PM

単に、「そんなエロ漫画なんか読んでないで勉強しろ」と親が言えばいい話。自分の子供がどんな漫画読んでいるかぐらい把握していないのは、親の怠慢ではないか。

それを行政が作品の内容を精査して、これは読んでいい、あるいは読ませないとか判断するなんて、余分な仕事を作るのはいかがなものか。
そういうのは本来親がするべきことでしょうに。

それを行政任せにするのがマズイのではないか。

たとえば、「テレビばっかり観て子供が勉強しないから、テレビ局に夜9時以降は放送しないでください」と
テレビ局に陳情するのでしょうか?
子供部屋にテレビを置いたのは誰なんでしょうか?

あの曖昧な法律では、ゾーニングする際に判断に苦慮するだろう。都当局の職員は悩むだろうな。

作品をゾーニングされた出版社や作者が、「これが成人コーナー行きになるのは納得いかない」と訴訟を起こしてきたらどうするのだろう・・・。

Posted by: yos | January 15, 2011 at 07:42 PM

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