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「優秀な人材」と「優秀な企業」

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経済産業省の補助をもとに「中小企業採用力強化事業」を手掛ける
日本商工会議所から、(株)リクルートが委託を受け運営している
ドリームマッチプロジェクトとのタイアップ記事です。
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現職に就く前、20年ほどを会社員として過ごした。自分自身が就職活動をしたのはバブルの最初期にあたる。だいぶ前だし、当時の就職活動は今とは比較にならないほど楽だったので、就活生としての自分の経験は、今の人たちの参考にはほとんどならないだろう。ただ、その後OBリクルーターとして、あるいは一次、二次面接者として、応募学生の面接をほぼ毎年担当していたし、教員になってからは学生に日々接している(今年度は諸般の事情によりやや例外だが)ので、その意味では就職戦線の「風」を感じられる場所に身を起き続けてきたことにはなるかと思う。

そんな事情もあって、今回、タイアップ案件で、経済産業省の「DREAM-MATCH PROJECT」を応援する記事を書くという企画に乗っかってみることにした。記事の上に出てる注意書きみたいな文章がその証。WOMJ的にいうところの「関係性の明示」ってやつだ。頼まれごとだからといって、自分の考えを曲げるつもりがないのはいつもの通り。加えて、元がひねくれた性格であるという事情もあるので、以下が応援になっているかどうかちょっと不安だが、本人としては本気で応援したいと思って書いているので誤解なきよう。

立場上、就職活動をする学生に接する機会は少なからずある。だからこれまでブログで、主に学生に向けたメッセージめいたものを書いたことはあった。

「ナンバーワン」でも「オンリーワン」でもない学生の皆さんへ伝えたい3つのこと
「好き」を仕事にするために知っておくべき5つのこと

今回は、採用する側である企業の方々向け。

二度目の就職氷河期だと世間は大騒ぎになっている。先日も、就職内定率が過去最低とのニュースが出ていた。

大学生の内定率57・6%と最低 氷河期並みの前年下回る」(47new - 2010年11月13日)
来春卒業予定の大学生の就職内定率528件は、10月1日現在で前年同期に比べて4・9ポイント減の57・6%で、調査を始めた96年以降で最低となったことが12日、文科、厚労両省の調査で分かった。

こんな状態だから、戦々恐々となった学生たちが、いわゆる就活イベントや会社説明会の予約に殺到しているのも理解できる。数十社にエントリーシートを送ったが内定ゼロだとかほとんど面接にすらたどりつけなかったとか、そういった「悲惨」な体験談がメディアを駆け巡り、世間の同情やら企業への憤りやら、あるいは逆に「学生もっとしっかりしろ」といった叱責やら激励やらを受けているようだ。

こうした際によくみられる「かわいそうな学生たち」という構図は、企業の方々、特に中小企業の方々からみれば、ちょっと複雑な思いなのかもしれない。報道等によれば、最近の状況について企業側は、「応募数は増えているが採用基準を満たす学生が少ない」と考えているそうだ。応募数の増加は、就職情報サイト等を通じて、企業の情報が学生に伝わりやすくなっていることを反映しているんだろう。採用基準については、「グローバル化の進展や技術進歩、社会の変化などにより、優秀な人材へのニーズが高まった」とする企業が多いようで、つまり高くなってきているわけだ。それなのに、学生の側は、意欲に欠けたり、コミュニケーション能力が不足していたりで、企業が求める水準に達していない。だから、企業としては、無理に採用枠を満たさなくてもいい、ということになるらしい。

また、大企業を中心とする一部の人気企業には学生たちが殺到する一方で、そうでない多くの企業では、大学に求人票を送っても就活サイトに求人情報を出してもあまり学生が来なかったり、あるいはそもそも情報を出すコストを負担しきれなかったりで、なかなか採用できない、という話も聞く。こうしてみると、企業側からは、学生たちが、メディアなどの情報や乏しい知識の中で、イメージに流され、あるいは心配性の親たちの過剰な介入を受けた結果、有名企業に殺到して、内定をとれず騒いでいるだけのようにみえるかもしれない。学生たちよ、もっと努力しろ、広い目で就職先を探せ、などと言いたくなる向きもあろう。

そのこと自体には必ずしも異論はない。しかし、ちょっと待ってほしい。実はこれ、学生の側からも、ちょうど裏返しのことがいえるのではないか。

学生たちは基本的に、厳しい経済状況の下、安心して仕事に取り組める環境で働きたいと思っているだろう。どんどん企業が倒産したりリストラに走ったりしていく昨今の経済情勢の中で、より経営基盤が安定している企業を探そうとすると、どうしても大きな企業、有名な企業に偏ってしまいがちになるのは、むしろ自然なことだ。それは企業が、応募者を人物本位でみるといいながらも、つい出身大学やゼミ・サークルでの経験や役割、アルバイトでの経験といった、比較的外部から判断しやすい項目に影響されがちであることと、基本的には変わりがない、とはいえないか。

もちろん、学生側の情報収集や勉強といった努力が足りない傾向があるのは事実だろう。もっとよく調べて、売上高や知名度だけでない企業の本当の姿を知ってほしいと思うだろう。しかし、ではいったいどんな情報源があるだろうか。就活サイトの記載内容を読んだり、企業のウェブサイトや会社案内にある通り一遍の説明などを見ればわかる部分は、その企業のごく一部の側面に過ぎない。熱心な学生は、各種資料にあたったり、人に聞いたり、2ちゃんねるその他、ネットをいろいろ調べたりもするが、情報の信頼性はさまざまだ。

実は、当たり前と思われるこうした作業ですら、やってみるとけっこう大変だ。中でも、エントリーシート自体がけっこう曲者。会社にもよるが、中には頓智問答としか思えないような珍問奇問もあったりするし(「自分を五つの要素で表現してください」に即答できる人はどれだけいるだろうか)、自社商品への改良提案を求めたりするものもあるから、おざなりというわけにはいかない。基本項目である志望理由だって、「なぜ業界他社ではないのか」というつっこみが当然予想されるから、それぞれその会社が第一志望であるもっともらしい理由を考えなきゃならない。

こういった質問項目は、それぞれ担当者が知恵を絞って会社の個性を出そうと考えたものだろうが、これを数十社分書く身になってみたことはあるのだろうか。しかも時期はけっこう集中している。学生の個性をみるといえば聞こえはいいが、学生からエントリーシートをどう書くかについての相談をよく受ける身からすれば、こんな質問で個性がわかるものか、面談する手間を体よく省きたいだけではないか、と思うこともしばしばあった。ああいうのはぜひご一考願いたいところ。

もちろんこれだけでは終わらない。エントリーシートを書く前提として業界研究や企業研究は欠かせないし、説明会だってあちこちでばらばらに、多くは平日の昼間に開かれる。これらをこなすために、学生たちがどれだけの時間を割かねばならないか、想像してみてほしい。ふつうの大学生は、暇人ではない。3年生なら、まだ平日は毎日授業があるのが当たり前だ。それが、この一連の活動のため、下手をすれば丸つぶれになる。そこまでしても、面接にもたどりつけない学生たちが少なからずいるのだ。彼らも、応募者がなかなか集まらない企業と同じように、せめて面接の機会をくれ、大学名などの属性や、エントリーシートのような簡単な材料だけで自分を判断しないでくれ、といいたいだろう。

企業の対応を批判したいわけではない。「優秀な人材」を求めて採用を控える企業と、「優秀な企業」を求めて有名企業に殺到する学生は、実はよく似ている、といいたいのだ。私の目からは、企業も学生も、相手に高い水準を求め、それを満たす相手がいないと嘆いている状況のようにみえる。つい連想してしまうのは婚活をめぐるあれこれだが、実際、不確実性の高い環境の下で大きなコミットメントを行う際、つい慎重になってしまうという意味では、これらはすべて同じ類の問題といえるだろう。

となれば、学生だけにしっかりしろというのはやや不公平というものではないか。繰り返すが、今の学生たちに、もっとがんばってほしい、努力してほしいという気持ちは、私も変わらない。しかし、ただそれだけでなく、企業の側から、もう少し歩み寄る方向性はないものか、ぜひ考えていただきたいと思う。

もちろん、個別企業にできることには限界がある。経済情勢、業界構造、他社との競争条件などは、変えようと思っても、単独で変えることはできない。採用人数を増やしたくても、この景気ではそうそう増やせるものではないだろう。景気のような大きな課題は政府の仕事だ。その他、財界なり、業界団体なりといったしかるべき方々や組織が、それぞれの場で、しかるべきことをする必要があるのは論を待たない。

いってみれば、この「DREAM-MATCH PROJECT」も、そうした試みの一環だろう。就職支援サービスは既に民間でも行われているが、中小企業の利用も進んでいるという状態では必ずしもないらしい。なんらかの(おそらくコスト面で)理由で、必ずしも中小企業にとって利用しやすいものではないのかもしれない。このプロジェクトは、その穴を埋めようというものだから、いわゆる民業圧迫の話がストレートにあてはまるものでもなかろうと思う。コストを下げることで出会いの場を広がるなら、それは大きな価値がある。

しくみも、なかなかよく考えてあるように思う。企業と学生が出会う場は、ウェブ、各参加企業での面談、イベントという3つ用意されている。特に地方の企業、地方の学生にとっては、ウェブ会社説明会という機能は魅力的かと思う。リアルのイベントでも、民間企業が主催するものでは、大企業を中心とする人気企業を加えることで学生を集めようとすることがよくあるが、こうすると学生はつい、その人気企業に集中してしまう。その意味で、「DREAM-MATCH PROJECT」のように、従業員数1000人以下の企業を集めたイベントのほうが、学生が冷静に企業選びができるかもしれない。もちろん、「あの」エントリーシートというプロセスを設定していないらしいのも評価できる。こうしたサービスは、広く利用されて初めてその真価を発揮する。ぜひ多くの企業に参加してもらいたいと思う。

もう1つ、重要な点がある。「DREAM-MATCH PROJECT」への参加は、企業がその採用までの流れを、所定の方式やスケジュールにしたがって進めるということを意味する。このようなかたちで選考プロセスが一定程度標準化され、可視化されることは、応募する学生にとって、選考がどのように進み、いつ結果がわかるかがあらかじめ予想できるため、就職活動に伴う不安を大きく低減するものとなるのではないか。ネットで検索してみると、必ずしもスケジュールどおりに回答が得られない場合もあるとの声もみられたが、この点はぜひ、事務局から各企業に働きかけ、徹底していただければと思う。

というわけで、「DREAM-MATCH PROJECT」にはおおいに期待したいところだが、それはそれとして、個々の企業にも、お願いしたいことはある。「優秀な人材」の範囲をもう少し広げ、「将来優秀になるかもしれないと思われる人材」ぐらいまでを含めていただけないものだろうか。何も不必要に採用人数を増やすべきと主張するものではない。採用計画で予定した人数があるなら、少なくともそれを下回らない人数を採用する、という方向で臨んではもらえないだろうか、ということだ。

記憶をたどっていただきたい。今企業で採用活動に携わっている方々、現場で活躍されている方々は、就職活動をしていた当時、どれほど「優秀な学生」だったのだろうか。ご自身でどれだけその自覚があっただろうか。もちろんそういう方も少なからずいらっしゃるのだろうが、とてもそんな大それたことはいえない、という方のほうが多いのではないかと推察する。おそらくたいていの方は、もちろん、入社時には誰かしらに「優秀な人材」と言ってもらった記憶があるだろう。しかしそれが単なる社交辞令でしかないことは、その後現場でいやというほど思い知らされたはずだ。

大胆に言い切ってしまえば、優秀な人材は、多くの場合、最初からそうだったのではなく、企業で鍛えられて優秀になったのだ。それはおそらく、昔も今も変わらない。現在ぱっとしない学生の中に、磨けば光る「原石」のような人材がいるかもしれないのだ。特に、他の企業が皆採用を絞り込んでいる時期ならなおさらだろう。もちろん逆のパターンもあるはずだが、もし会社が求めていないような人材なら、自ら会社を離れていく可能性は決して低くない。現在、入社3年以内の大卒社員離職率は3割を超えてるんだし。であれば、可能性を広げる方向に選択することは、それほど奇手ではない。

今の学生たちは、ひょっとすると、昔の学生が常識として知っていたことを知らない、といったことがあるかもしれない。しかし、私も学生たちと日々接するのでわかるが、彼らは、その代わり、上の世代が持っていなかった能力や知識を少なからず備えている。彼らは上の世代と比べて「劣化」したのではなく、別種のスキルセットを持った人材なのだ。さらにいえば、時が進むにつれ、社会は次第に、彼らの世代やその下の世代で構成されるようになる。とすれば、こうした若い世代を企業内に迎え、戦力化しておくことは、企業が今後ビジネスを行っていくなかで、むしろ必須の生き残り条件のように思う。

厳選して優秀な人材を得たいと考えるのはもちろん道理ではある。しかしそのために、予定していた採用枠を余すということは、その分だけ今いる社員たちの負担が増すことを意味するということも忘れてはならない。それは、果たして健全なことなんだろうか。仕事は、「優秀な人材」のための仕事だけで構成されているわけではない。職場にいるべき人数を減らしていくと、残る社員の負担は加速度的に増えていく。「優秀な人材」であれば、多少の柔軟性はあるだろうし無理を聞いてくれるかもしれないが、いつまでも続くものではない。無理を重ねると、着実に職場は疲弊し、社員は意欲と健康を失っていく。「無理をしてまでも採用枠いっぱいには雇わない」というやり方は、それ自体が無理をしている。

もっとはっきりいえば、もし「優秀な人材」というときの「優秀」が「これまでの自社の人材より大幅に優れた」を意味するなら、それ自体が無理難題だ。「優秀な企業」が殺到する応募者から選べる立場にあるのと裏返しで、「優秀な人材」は、就職先を選べる立場にある。かなり高い確率で早期に複数社の内定を確保しているのは当然として、そのうち最も望ましい1社をキープしながら、さらに「上のランク」を求めて活動を続けていたりもするかもしれないし、入社後だって転職のチャンスは無数にあるだろう。だから、仮になんとかつかまえて内定を出しても、結局逃げられるリスクが大きい。要するに、「優秀な人材」が欲しければ、究極的には自社が「優秀な企業」になるしかないわけだ。多少は採用のやり方などの「努力」でなんとかなる部分はあるにしても。

以上、ポジショントーク半分、煽り半分のようなかたちになってしまったが、昨今の就活事情について思っていることを書いてみた。少しでも参考になれば。企業の方々も学生も、ぜひがんばって満足できる採用活動、満足できる就職をめざしていただきたい。

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