「今こそ読むべき本」(リスク関連)を補足しておく
今売られている(のかな?)「日経ビジネスAssocie」2011年5月5日・17日号に「今こそ読むべき本」という特集が出ているのだが、この中で「リスク」に関する本を紹介する短い文章を書いている。この文章、なんだかんだで当初の案より短くなってしまって、よく伝わらないかもなあと思ったので、補足という意味もこめて、もともと書いた文章をここに載せちゃえというリサイクル企画。
【必読書3冊】
最新 リスクマネジメントがよ~くわかる本
東京海上日動リスクコンサルティング株式会社編
秀和システム 2004年
ISBN: 978-4798007748
企業のリスクマネジメントに関する入門書。とりあえず必要な基礎知識を広く薄くカバーするといったコンセプト。理論というより、実際に企業の中でどのように体制を作り、どのような規定を制定するかといった実務的内容が中心。リスク要因やその影響を分解して評価するイベントツリー法やフォールトツリー法に関する簡単な解説が出ているので、この本をとりあげたが、類似テーマでもっと新しい本もあるので、併せて読まれるといい。
リスク学入門 1 リスク学とは何か
責任編集:橘木俊詔、長谷部恭男、今田高俊、益永茂樹
岩波書店 2007年
ISBN-13: 978-4000281317
各分野の研究者を集め「リスク学」という学問領域を切り開こうという研究書シリーズの第1巻。本巻は、巻頭の共同討論がリスクへの俯瞰的な視点を得るのによい。第2巻以降のより突っ込んだ研究と併せて読むことをお薦めする。ちなみに本シリーズの第5巻「リスク学入門 5 科学技術からみたリスク」では、「低線量放射線のリスク評価とその防護の考え方」「地震災害とリスクマネジメント」など、昨今関心の高い事項も取り上げられている。
失敗学実践講義 文庫増補版
畑村洋太郎著
講談社文庫 2010年
ISBN: 978-4062766135
あらゆる事故、災害には人災の要素がある。再発防止のため人間の「失敗」を工学的にとらえようと提唱する畑村氏の「失敗学」は多くの賛同者を生み、幅広い分析事例を通じて知識の体系化が進みつつある。本書は、事故やトラブル、不祥事や経営破綻など、企業の具体的な「失敗」の事例をもとに、失敗学の基本的な考え方をわかりやすく解説している。理論的な部分については、同氏の「失敗学のすすめ」を併読して補われるとよい。
【山口の一押し3冊】
リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理
ダン・ガードナー著、田淵健太訳
早川書房 2009年
ISBN: 978-4152090362
リスクの影響はしばしば、それ自体の性質よりも、どう認知されるかに左右される。本書は人間のリスク認知の「歪み」と、それを利用して「恐怖」を操り、「安心」を売るビジネスの実態を取り上げている。地震後の買い占め等を見れば、企業のみを悪者にはできまい。「騙されない」ことは私たち全員の社会への責任でもある。
※追記
そういえばこの本については感想をブログに書いたのだった。
リスクに背を向ける日本人
山岸俊男、メアリー・C・ブリントン著
講談社 2010年
ISBN: 978-4062880732
社会心理学者と社会学者の対談形式による日本人論。日本人のリスク回避傾向は国際比較調査でもはっきり現れている。本書で取り上げるリスクはどちらかというと対人関係における自分の評価に関する「内的」なものだが、災害など外的なリスクに正面から向き合わず無償の「安心」を求める傾向を考えるうえでも参考になる。
ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質(上)(下)
ナシーム・ニコラス・タレブ著、望月衛訳
ダイヤモンド社 2009年
ISBN: 978-4478001257
ISBN: 978-4478008881
上下巻だが原著に従い合わせて1冊扱いする。「ブラック・スワン」とは「ありえないはずのものごと」の象徴であり、それが実際には頻繁に起き経済を動かしてきた。トレーダーでもある著者はこれを学者の無能の証拠ととらえているようだが、私はむしろ、理論の守備範囲を正しく理解せず濫用する実務家への批判と解釈する。
今にしてみると、「ブラック・スワン」の代わりにこっちを入れておいたほうがよかったかも。数が限られると難しいなあ。
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