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November 25, 2011

「STORY」の新聞広告はいったい何を意図しているのだろうか

新聞を読む際にどこから読み始めるかは、人によってちがうだろう。子供のころ、「最近の子供はテレビ欄から読み始める」と嘆いていた大人がいたが、いまや新聞を読む子供自体が少なくなっているから、テレビ欄を読んでくれるだけでもありがたい存在なのかもしれない。

個人的には、新聞を読む際につい見てしまうのは、広告、中でも出版物の広告だ。どうかすると1面トップの見出しより先に見ていたりすることもある。中の方の面には、雑誌の広告が出ていて、これも愛読している。雑誌が発売されるタイミングに合わせて新刊の内容を伝えてくれる広告は、その雑誌を買うかどうかの判断に大きく影響する。連載作品など、内容がある程度予想つくものである場合は別として、その雑誌がどんな内容なのかは広告で知ることが多い。少なくとも私の場合は、新聞その他の広告を見て気になったものがあれば買う、という感じになっている。

そういう意味で「雑誌の新聞広告」ファンである私としては、ちょっと前から気になって気になってしかたなかったものがある。たぶん同じ思いの方は少なからずいるにちがいない。「STORY」だ。

というわけで久々の「雑誌目次をみる」シリーズ。

「STORY」は、いわずと知れた光文社の女性向け月刊誌だ。この種の女性雑誌は想定読者層を年代別に分けているものが多いが、「STORY」は40代向け。女子大生~20代前半の「JJ」(1977年創刊)から始まり、20代後半の「CLASSY」(1984年創刊)、30代の「VERY」(1995年創刊)に続いて「STORY」(2002年創刊)へと続く、光文社のコンサバ系ファッション誌のラインの中でも最も上の年齢層を狙ったものだ。1980年代に「JJ」を愛読した女子大生の世代が歳を重ねるにつれて順次創刊していったという大変わかりやすい流れではある。

だとすれば、どちらかといえばコンサバな路線の雑誌である「STORY」の広告も、どちらかといえばコンサバなものを期待するのが自然な流れというものであろう。その意味で、その「STORY」の新聞広告が、こんなことになってるのを目にすれば、誰だってぎょっとするのではないか。

Pic1

細かいところが見えにくいかもなので、右側のマンガを少し拡大したものをここへ。

Pic2

左側のはこれ。

Pic3

いったいこれはどうしたことだろうか。記憶が定かでないが、この路線は少なくとも1年くらい前には始まっていたように思う。もしや雑誌自体が路線変更したのか?などとあらぬ疑いを抱き、一応2011年12月号(創刊9周年記念号だそうだ)を買って目次をチェックしてみ、るとこんな感じ。

[FASHION大特集]
無糖派参入で大激変!カジュアル服、ブランド小物、デニム……40代的にいま、どこがイケてる?
SKB48総選挙

[LIFE大特集]
世界中で!
女は女で磨かれる 
・富岡佳子さん×トリー・バーチさんin N.Y.、
・倉本康子さん×パオラ・フラーニさんinリミニ、
・中村江里子さん×雨宮塔子さん in パリ

「社会に大きな影響を与え、活躍した女性」へ
発表!第2回 STORY WOMAN OF THE YEAR
受賞者 真矢みきさん

[Fashion]
9周年記念!誌上エアパーティでオシャレバトル
「ハオる感じが新しい」今年のアウターSHOW
最後に狙うは、ダウンぽくない゛お洋服ダウン"
富岡佳子さん「42歳のオシャレ地図」
女を気取る日の「エレガントブーツ」
DKJモデル・倉本康子「オシャレ6つの掟」
ブーツを履かない日は「とんがりパンプス」

゛ゆるパン゛でYES!楽チン、BUT!きちんと
レディ「ボーダー」vs. ダンディ「チェック」真冬の決戦!
魔法の“ハリーポッチャリー”ワンピが、超多忙な年末を救う

あなたはどっち!?バブル vs. DKJ 「指名買い」ジュエリー&ウォッチ
RIKACO'S「誰でも持ってる定番の、新しい輝かせ方」②ファーアイテム
進化するブランドSTORY (65) Dior
富岡佳子さん コッツウォルズで“めぐりあい”の時間

[Beauty]
モデル里織さん&STORY美容班 今月の「一目惚れ、二目惚れ」コスメ
無糖派の日の「しっくりCHIC」メーク
40代ヘアメークさんが選ぶ「2011 STORY的ベストコスメ」発表

[Living]
豆涼さんの「祇園ごよみ」(11)美味しい紅葉を求め“奥京都”へ
美味巡礼(58)優雅に朝活「ホテルの朝食」
名店シェフの「これ、自宅で作って食べてます」

[Life]
林真理子『出好き、ネコ好き、私好き』
最旬王子様ファイル(24)大野智
連載小説 重松清『白夜のタンゴ』
40代“バツ0”シングルズ「新しい幸せのあり方」
「更年期」のクスリ


・・ふむ。
この他レギュラーのコーナーがたくさんあるんだが省略。ざっと見渡したところ、基本的に路線は変わってないっていや変わってない印象。語呂合わせやら略語づくりやらが大好きなのも昔どおり、というかこれは女性雑誌共通。少なくともこのマンガのようなテイストの記事は1つもない。もちろんマンガが出ているわけでもない。

ちなみに巻頭特集の「SKB48」は、「STORY的・キテル・ブランド 48」という意味だそうで、これが件の新聞広告のテーマとなっているわけだ。で、写真から読み取れる「ハイ&ローコーディネート」ってのは、「服は安く賢く、自信をくれる小物はお金を惜しまず」というコンセプトらしい。「自信をくれる小物」って何さというとどうもバッグのようで、

「10万円以上のブランドバッグは今や40代の必需品」

だそうな。まあこのあたりはこのラインの雑誌の面目躍如みたいなもんだが、それでも以前と比べると、少し相場感が下がってるという印象がある。目次では紹介を省略したが、レギュラーコーナーの中に「スタッフの“エア買い”カタログ」(「エア買い」っていうのがなんというか今ふう)というのがあって、それだとこんな分類になってる。
・30万円以上→清水買い
・10万円~30万円→ご褒美買い
・10万円以下→大人買い

なんというか、金銭感覚がリアルだね。「大人買い」は男性もよく使う言葉だろうが、「ご褒美買い」「清水買い」(いうまでもないが「きよみず」ね)は、覚えておくと使えるかもしれない。ともあれ、そういう高級なブランド品と、ファストファッションみたいなのを上手に組み合わせて賢くおしゃれを楽しもう、というのがコンセプトのようだ。

・・・そうか。

だんだんわかってきた気がするので、以上をふまえて、この謎なマンガ広告の意味について少し考えてみる。おそらくこんなことなのではないか。

(1)賢い40代「STORY」女子は自虐もさらりとこなせるというメッセージ
どうも、この雑誌のキーワードは「高級」でも「ファッショナブル」でもなく、「賢く」であるように思われる。見栄を張ってもイタいだけだし、実際それほど余裕があるわけじゃない。体型だって昔とはちがう。背伸びせず、気楽に。素の自分に自信があるから、欠点があることを無理には隠さない。むしろ自虐も余裕で軽く流してみせる。でも「女」は捨てない。おしゃれは忘れない。それが賢い大人の女性。そういうことなんだろう。

それがよくあらわれているのが、上の目次にも出ている「ハリーポッチャリー」だ。詳しくは知らないが、SMAPがテレビのバラエティ番組の中でやってる「ハリー・ポッター」のパロディだったと思う。で、主人公のハリーが「ぽっちゃり」という設定なんだが、このことばを使っている「魔法の“ハリーポッチャリー”ワンピが、超多忙な年末を救う」というコーナーでは、太めの女性向けの服を紹介している。「ポッチャリー」とかわいらしく言うことで、事実を受け入れつつ印象を和らげてるわけだ。実際の服はというと、要はおなか周りがゆったりできていて、無理しなくてもいいんだよ、でもおしゃれだよ、というコンセプト。まあ雑誌ではとても太めとはいいがたいモデルさん(モデルとしてはどうか知らんが)が着ているわけで、実際とはいろいろちがうはずだが、まあそこはアレだ。ともかく、無理して細めの服を着たりしないというわけで、そういう、「自分がわかってる」というのが賢い大人としては重要ということなんだろう。

(2)昔のままではダメであるというメッセージ
このマンガ広告は、ダメなファッションといいファッションを並べてみせている。で、ダメな方については「全身ブランドもの」は「なんだか時代遅れでダサい」、「全身ファストファッション」は「若けりゃありだけど…ちょっとかっこ悪い」とバッサリやってる。つまり、昔のままの服やセンスではダメだよ、ということを示しているわけだ。この種の雑誌を若いころから愛読していた女性なら、洋服ダンスの中にはきっとかなりの数の服が眠っているにちがいない。「いつか着られるかもしれない」ととっておいたブランド服も、いまやそのまま着たのでは体型も合わないし、年齢にそぐわないし、そもそも今の目で見るとダサい、と。だから今の時代、今の自分に合わせた服を買いなさいよと、そういうことを言いたいわけだな。

そして、ここでこそ、このマンガ広告の真価が発揮される。「今やダサくなってしまったブランド服を着たイタい40女」を、実際に存在する服を着た、実在のモデルの写真で示すのは、「イタい」を通り越して、あまりに痛々しすぎるではないか。それに、「ダサいファッション」の引き合いに出されたブランドの人だっていい気はしないだろう。ここはやはりマンガで、思い切りイタい40女を描いてみせれば、言いたいことは伝わる。買ってもらいたい最新のファッションも、小さな広告スペースに全部のブランドを紹介するわけにはいかないから、マンガでそれっぽく描いとけば、あとは読者が勝手に「理想のファッション」を想像してくれる。

もちろん、「自分のことをわかってて、自分に自信があって、無理せず賢く、でもおしゃれ」というコンセプトは、実際の読者というよりは、読者がそうありたいと願う理想像なのだろう。実際の40代女子読者の中で、そういう人はむしろ少数派であるにちがいない。少し背伸びして「背伸びしていない自分」を夢見る、という印象を紙面からは強く受ける。

この種の雑誌でよくある読者モデルを「STORY」がほとんど使っていないように見えるのは、そのあたりと関係があるのではないか。読者が身近さを感じることで意味を持つ読者モデルでは、もはや目の高い40代女子読者の憧れの対象にはなりにくいのだろう。おそらく彼女らはうすうす勘付いている。このくらいの年齢になると、女性の魅力のかなりの部分が外面ではなく内面からくること、そしてそれが、少々金を使ったくらいでは身につくものではないことを。だからといって、男性のように、外面を飾ることをまったくかなぐり捨ててしまうこともできない。だからこそせめて、「無理せず自然体の自分」くらいは自らの手にしたい、といったところだろうか。だとすれば、なかなかに業の深い話ではある。

というわけで、この「STORY」のマンガ広告、意外に深いのではないか、というのが今のところの勝手なる見立て。機会があったらぜひ光文社の方にお話をお聞きしたいところ。



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