「虹色ほたる~永遠の夏休み~」を見たので
先日、「虹色ほたる~永遠の夏休み~」を見てきた。東映アニメーションが約30年ぶりに製作したオリジナル劇場用映画であるらしい。ゼミの卒業生が東映アニメにいて勧められたのがきっかけだったが、なかなかよかったので少し感想的なものを書いてみる。
「オリジナル作品」とはいえ原作はあって、これ。もともとウェブ連載していた小説が、人気投票サイトで上位にランクされ、出版に至った由。映画がよかったので、読んでみようかと考えている。
ひとことでいえば、ちょっと不思議な感じのする映画だった。違和感、とまでいうと語弊があるかもしれないが、今のふつうのアニメを見慣れた目からすればちょっと違う感じを受けるのではないかと思う。
全体として、とてもていねいに描かれているが、絵柄は精密というより、柔らかい印象。特に印象的なのは人物の描き方で、輪郭線がきっちりとは描かれておらず、太さも一定ではない。陰影もあまり描かれず、イラストのように見える。全体として、「動く絵画」のような感じといったらいいだろうか。すべて手描きなのだそうで、それが独特の風合いにつながっている。
もうひとつ印象が強かったのは、登場する子供たちの声。大人の声優ではなく、年齢の近い子役を使っていた、とある。今ふうのアニメに出てくる、大人が演じる「子供」とは明らかに違う、リアルな子供。見始めた当初、主人公のセリフを若干耳障りに感じたのだが、それも、子供がひとりごとを言っている様子など見る機会がないからなのだろう。
ストーリーについては細かく書かない。簡単にいえばタイムスリップものだ。2001年時点で小学6年生だった主人公が1977年にタイムスリップし、そこで同世代の子供たちと1ヶ月ほどの夏休みを過ごした後、元の世界に戻る。その後成長して2011年ごろ、大学生として、当時過ごした場所に戻ってくる、という流れだ。主人公が1977年の夏を過ごした山奥の村は、美しい自然の中で温かい人々が暮らす「古き良き日本」として描かれている。
私は1977年当時中学生で、本作に登場する当時の少年たちとほぼ同世代だ。正直な話、自分が生きていた時代が「古き良き日本」として登場したことには衝撃を禁じ得なかった。私の場合は東京にいたので、こうした大自然の中で伸び伸びと成長したわけではなかったし、実際、公害問題やら各種の事件やらもあったりしたので、当時の社会を「古き良き日本」と見るのにはかなりの抵抗感がある。
とはいえ、当時の日本にこういう場所があったとしても、もちろん驚かない。本作の中でも朝早くカブトムシを捕りに行くシーンがあるが、私たちの世代にとって、たとえ東京に住んでいたとしても、少なくともカブトムシは「買うもの」ではなく「捕るもの」だった。やはり、何を美しく、懐かしく思うかは世代によって違うのだろう。そういえばスタジオジブリの「耳をすませば」にも、主人公が団地の広がる風景に感動するシーンがあった。その意味で本作は、私より下の世代の方が、素直に「古き良き日本」を楽しめるのかもしれない。私としては、むしろテレビからキャンディーズの歌が流れるシーンに「おおお」となったりしたのだがそれはさておき(あと、音楽を松任谷正隆氏と松任谷由実氏が担当してるのも私たちの世代的にはおいしいポイント。)。
作品全体としては、「二度と戻れない子ども時代」を描くことで、「今を生きる」というメッセージを伝えたかったのだそうだ。時の経過とともに、私たちは過ごしてきた過去の大半を失う。地震のような天災や、あるいはダム建設のような人為的な行為がその引き金を引くこともあるだろう。そこに「忘却」が重なる。忘れたくないことも、大半は忘れてしまうのだ。
それでも心の中には何かが残っていて、何かの拍子にふっと顔を出す。何だかもう思い出せない何かが、私たちの今の行動に影響を与えている。一度つながったものは、どこかでずっとつながり続けている。忘れてしまった探し人とも、きっとどこかでまた巡り会える。少なくともそう信じることで、今を生きる力が生まれる。そんなメッセージだろうか。震災から1年余が過ぎた今だからこそ、その意義は大きいのかもしれない。
すべての年齢の、「今を生きるこどもたち」にお勧め。劇場公開はもう残り少ないと思うが、これはDVDを買ってもいいと思える作品なので、発売はまだ先だろうが、出遅れた方はぜひそちらで。
The comments to this entry are closed.
Comments
となりのトトロなどが代表格だけど、エンターテイメントの追求が少ないような気がする。
ディズニーは、作りたいものではなく、売れるものだから、そのへんが足りないような気がする。
子供の声優はとてもよい傾向だと思います。
Posted by: タッチペン店長 | May 28, 2012 08:46 PM