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June 03, 2015

「江戸ビジネスしぐさ」を作って遊ぼう

数日前から「出されたお茶を飲むのは失礼」みたいなネタでネット上で出回っている。ネタ元はこれだろうか。

【悲報】新入社員、取引先で出されたお茶を飲む」(2ちゃんねる)
1 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2015/05/12(火) 17:51:31.769 ID:kgA90QFt0.net
会社出てやったことの意味を教えたら青ざめてた
(中略)
137 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2015/05/12(火) 18:57:42.219 ID:wLGKj6Rld.net
>>133
相手の条件を全部飲む、という意味になる

こういうネタは誰でも乗っかれるのでバズりやすいが、そもそもマジレスするほどのものではない。そんなルールは少なくとも社会に定着したマナーとしては存在しない、でFAなんだが、それで終わっちゃ面白くない。

というわけで、ちょっとだけ悪乗りしてみる。こういうのを「江戸ビジネスしぐさ」とでも名付けてみてはどうか。

「江戸ビジネスしぐさ」は一見あの「江戸しぐさ」と似ているが、一切まったく、何らの関係も120%ない。「江戸しぐさ」は特定非営利活動法人江戸しぐさの登録商標(登録番号第5274382号)であって、「セミナーの企画・運営又は開催,書籍の制作,電子出版物の提供,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」に用いると彼らのビジネスを邪魔することになって怒られてしまうわけだが、「江戸ビジネスしぐさ」はそれとはまったくちがう、ただの遊びだ。

何の根拠もないルールをさも古くからある常識であるかのように語る人はよくいる。その人やその人が属していた会社や業界でのローカルルールだったのかもしれないし、「そうだったらいいのにな」という願望かもしれない。まあ、一番多いのは、自分を相手に対して優位に置きたいという場合かもしれない。あと、そうしたルールをネタにして商売している場合もあるだろう(おわかりいただけると思うが、これらは「江戸しぐさ」とはまったく関係はない)。

そういうものに対して「ムキ―ッ」とばかりに反論したり抗議したり、批判したりという人がいるが、そうやってみても、多くの場合はたいした効果はない。そういうのを信じる人たちは信じたいから信じているのであって、そういう「ムキ―ッ」には耳を傾けないし、関心のない人はそもそも関心がないからやっぱり耳を傾けない。そうこうするうちに何も知らない人がのこのこやってきて「あーそうなのかー」と信じ込んで、どうかすると公共放送の番組になっちゃったり学校教科書に載っちゃったりするわけだ(くりかえすが、これらは「江戸しぐさ」とはまったく関係はない)。

そういうときはむしろ、ネタにして笑ってやるといい。ばかばかしいもの、まじめに取り上げるべきでないものというイメージを与えることによって、自然と使われなくなっていくのではないか。という意味で、「出されたお茶を飲むのは失礼」みたいなものに適当なウソ歴史を付け加えて「江戸ビジネスしぐさ」認定することにしてみよう。

晴れある「江戸ビジネスしぐさ」第一号である「出されたお茶を飲むのは失礼」のいわれについては、たとえば、元禄時代に江戸の豪商紀伊国屋文左衛門が幕府勘定奉行の荻原重秀に呼ばれて屋敷を訪れた際、出されたお茶を許しなく飲み干してしまい、不興を買ったことが後の没落のきっかけになった、なんて話はどうだろうか。

他に「江戸ビジネスしぐさ」認定したいものは・・・と1、2分考えて出てきたネタとウソ歴史を3つほど。

「商談を決める日には赤パンツ」
その昔、材木商河村瑞賢が、幕府の大きな仕事を請け負うための交渉に向かう際、赤ふんどしを締めていった逸話から、商談で「今日こそ決めるぞ!」という日には赤パンツをはくのが江戸ビジネスしぐさ。

「コーヒーを出されたら小指を立てて飲む」
茶人としても知られた三井高利が古田織部の茶会に招かれた際、持ち手のついたコーヒーカップ型の茶碗で茶を出され、小指を立ててお茶を飲んで織部を感嘆させた逸話から、客先でコーヒーや紅茶を出されたら必ず小指を立てて飲むのが江戸ビジネスしぐさ。

「お釣りを手渡すときは空いている手で相手の手の甲をさわる」
これについては前に書いたことがある。そのとき描いた絵をここにも置いとく。こういう渡し方。どうにも気になるのだが、これも江戸ビジネスしぐさにしてしまおう。
otsuri
さる豪商がまだ貧しかった頃に吉原で買った花魁からお代のお釣りをこのように渡されて感激し、商売で大成功した後に太夫となっていたその花魁を大金で身請けした逸話に由来する、なんてあたりでどうか。

あまりの嘘っぽさに我ながらくらくらしてしまうが、こういう「江戸ビジネスしぐさ」が明治維新の後、明治政府が江戸商人を弾圧虐殺したため消滅してしまった、という話をつけておく。今こそ幻の「江戸ビジネスしぐさ」を復活させよう!(断じていうが、これらは「江戸しぐさ」とはまったく関係ない)。

というわけで、「江戸ビジネスしぐさ」、もっとたくさんあった方が楽しいので、追加分を絶賛募集中である。思いついたらブログでもツイッターでも、どんどん流布していただきたい。

一応念のため書いとくと、お茶は飲んでもらうために出すのであって、おまじないじゃあるまいし、相手に条件を飲ませるために出すなんて会社があるとは(少なくとも)常識的には考えられない。「先方が「お茶をどうぞ」と促されたら「おそれながら」と手をつけるのがマナー」とかしたり顔で語る人もいるが、それならお茶を出す側が出す際に「お茶をどうぞ」と言うのもマナーであって、仮に言い忘れたとしても「いただきます」とか言っていただく分には何の問題もない。そんな程度の問題で壊れるような商談なら他の理由で必ず壊れるだろう。それはマナーの問題ではなく、相手との信頼関係がないという問題だ(商談の内容が「マナー本の執筆」とかだったら話は別だろうが)。
出されたお茶を飲むのは失礼です」(togetter)

目上の人が手を付けてからにしろというのも同様で、それはお茶を飲むときのマナーではなく、目上の人との関係に関するマナーだ。それだって、どうしても飲みたければタイミングをはかって「飲んでいいですか」と聞けばよい。マナーの存在自体を否定はしないし大事だとは思うが、マナーというのは他者への心遣いがその本質なのであって、自分が気を付けるためならともかく他人を見下したり批判したりするために使うなど本末転倒だし、形式にこだわった議論は無意味であるだけでなく有害だ。

まあそんなことはさておき、個人的には、元の2ちゃんねるスレにあった以下のようなやつも、なんか京都の例の「ぶぶづけ」みたいで面白いと思う。

117 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2015/05/12(火) 18:27:16.036 ID:KAnY73Qgd.net 飲み干すと早く帰りたいって意味になるからダメって聞いたけど違うんか

なので、「江戸ビジネスしぐさ」を作るなら、関西の方はぜひ「京ビジネスしぐさ」とか「浪速ビジネスしぐさ」みたいなバリエーションを作って楽しんでいただきたい。「京ビジネスしぐさ」なんかはきっと、かなりブラックなものになるんじゃないかと期待している。「浪速ビジネスしぐさ」はやはりビジネスの場面におけるボケとツッコミがテーマだろうか。これも期待。


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